婚前どころか、フリですが ~年下御曹司?と秘密の溺甘同居~
「そう。良かった。 あのね、社長が夏樹くんのこと呼んでるって」
「分かりました。ありがとうございます。ここが落ち着いたら行きます」
「いいの? すぐ行かなくて」
「大丈夫ですよ。 それに、もう始まります」

時計を見ると、開場10分前を示している。社長の呼び出しを後回しにできる翔くん…。その違和感を深く気にする間もなく、パーティーが開始した。

まずはホールに参加者が集まり、ツインタワーの社長の挨拶だ。その間、私たち社員は企業ブースの設営を手伝ったりと外で待機する。
そうして前半戦がつつがなく過ぎていき、後半も後半、そろそろ閉会に向けて動き出そうという頃。
翔くんと通りかかったフロアに人だかりができていた。

「何かあったのかな」

運営側としてトラブルなら必要な措置を取らなければならない。近づくと、人が多くてこの位置から状況は分からなかった。

「警備課時代の同僚が囲まれてますね」

翔くんは背が高いので見えたのだろうか。訝しげな顔をしている。

「話聞いてきます。小春さんはここで待ってて」

言うなり、人混みをかき分けていってしまった。待っててと言われたけど、気になるものは気になる。ちょうど群れから出てきた女性スタッフに声をかけた。

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