余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
「よ~しっ。んじゃ、始め」

 団長の覇気のない掛け声を受けて戦いが始まる。間もなくして足音が聞こえてきた。ビルだ。

 彼は正装を止めてベージュ色のチュニック、オリーブ色のパンツに黒いブーツといったかなりカジュアルな服装を選択するようになった。

 腰からサーベルを下げていることからかろうじて騎士と分かるが、傍から見れば非番の騎士あるいは駆け出しの冒険者に見えるだろう。他の騎士達が甲冑姿であるだけに一層異様に映る。

(窮屈なのが嫌いと言っていたけど……ようは自信の顕れなのよね)

 騎士は無属性魔法の使い手だ。これは纏うタイプの魔法で、言ってしまえば見えない鎧や武器のようなもの。肉体や剣にかければ凄まじい硬度を持つようになる。

 言わずもがな上級騎士になればなるほどその精度は上がっていく。それこそこんな普段着のような恰好でも何ら支障なくSS級のドラゴンと戦えてしまうほどに。

 そんな強者感を滲ませるビルの視線の先にはユーリの姿がある。その目つきは真剣そのものだった。ユーリの力量を見定めようとしているのかもしれない。

「見込みアリ?」

 声を潜めて訊ねてみる。直後、ビルは少々驚いたような表情を浮かべた。相当に集中していたようだ。

「ユーリはいくつでしたっけ?」

「10歳です」

 団長が答えた。ビルは軽く頷くと再びユーリに目を向ける。

「……っ」

 返事を待つ団長の表情は心なしか硬いように思えた。

(もしかして緊張していらっしゃるの? ユーリの将来を思って? ふふっ、まるでお父様ね)

「見込みはあると思います」

「本当!?」

「本当ですか!?」

「すごーい!!」

「ええ。……ただ」

「「「ただ?」」」

「ちょっと力み過ぎちゃってますね。聖女様にかっこいいところを見せたいんでしょうけど」

「がはっ!?」

 ビルが苦笑交じりにコメントしたのと同時に、ユーリの体は勢いよく蹴り飛ばされた。小さな体が土煙を立てて地面に転がる。

「ぐっ……! もう、一本だッ!」

 ユーリは起き上がろうとする。けれど、思うようにならないようだ。地面に顎をぶつけて悔し気に唸り声を上げている。

「終いだ。んな調子じゃ、何本やったところで変わりゃしねーよ」

「うっせ! たたかえよッ! このヒゲ面――」

「ユーリ!」

「なっ……」

 戦いは終わった。そう判断したエレノアは半ば倒れ込むようにしてユーリに覆い被さる。
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