余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
(神よ。貴方はわたくし達に祝福をお与えくださっている。誠に勝手ながらそう解釈させていただきます)

 エレノアは歯を出して笑った。振り返ればレイとビルの姿がある。唐突に笑い出したエレノアに戸惑っている様子だ。エレノアは悪戯が成功した子供のように一層笑みを深くする。

「わたくし達は、文字通りドン底ですね」

「ドン……どこで覚えてきたんですか、ンな言葉」

「ですので、後は登るのみです。めげることなく共に励みましょう」

(この声を届けるために。それがこれからのわたくしに出来ること)

 そう。エレノアには大望があるのだ。これから行われる慰問の旅は、その大望成就に向けた第一歩。立案者は長兄ミシェル。内容は言ってしまえばデンスター王国の立て直しだ。

(この計画が成功すれば諸問題の解決は勿論、クリストフ様の憂いも少なからず晴らすことが出来るはず)

 エレノアは両手に握り拳を作った。レイはやれやれと首を左右に振る。

「……セオドア様か」

「流石は我らが聖女様。頼もしい限りです」

「ふふん♪ そうでしょう。そうでしょうとも」

「ウィリアム殿。聖女様に世辞は通じませんよ」

「本心ですよ。レイ殿も同じ思いでいらっしゃるのでは?」

「……………………………………………………」

 レイは眉間に皺を寄せて目を逸らした。エレノアとビルは示し合わせたように顔を見合わせて微笑み合う。

「さぁ、参りましょう。明日は早い。寝坊などしては大変ですよ」

 まるで旅行にでも行くかのような浮かれっぷりにレイは一層深い溜息を、ビルは穏やかな表情でエレノアの背を見つめていた。
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