余命2年の初恋泥棒聖女は、同い年になった年下勇者に溺愛される。
 淡い茶色の髪をポニーテールに。胸や関節、額など部分的に防具を着用しているものの、白のチューブトップに茶色のショートパンツ、黒のロングブーツとかなり露出度の高い恰好をしていた。

 彼女の名はミラ。年齢は17歳。つい先日まで冒険者として活動をしていた双剣使いだ。撤退時に仲間達から見捨てられ、集落近くで行き倒れになっていたところをエレノア一行に救われた。その恩義からこの慰問の旅に同行することになったというわけだ。

 共に旅をするようになってから一週間足らずではあるものの、彼女の人懐っこい性格が幸いしてか早くも馴染みつつある。

「なるほど。それは盲点でございました。どうやら初代のご当主様も隅に置けないお方であったようですね」

 老齢の家令はミラの茶々も邪見にすることなく笑いに変えてくれた。穏やかな人柄が見て取れる。

「皆様ご機嫌よう」

 村民達は皆手を止めて挨拶をしてくれる。表情こそ硬くはあったが、嫌悪感や不快感が伝わってくることはなかった。王ならびに聖教からの使いということもあり、無礼がないようにと気を引き締めているのだろう。

「聖女さまー! どこに行くのー?」

 黒髪の少女が声をかけてきた。傍にいた母親が慌てて叱る。母親の顔はすっかり青褪めてしまっていた。

「自警団のお稽古場までー」

 エレノアは笑顔で応えつつ彼女の母親に会釈した。少女は満面の笑み。母親は何度となく頭を下げた。

 そんなやり取りをする内に、金属音と威勢のいい声が聞こえてきた。平らな芝生の上で騎士達が剣や魔法をぶつけ合っている。女性の姿はなく全員男性であるようだ。いずれも屈強。数にして30人ほどか。

「おーい、ボリス」

 呼びかけに応えたのは一際屈強な男性だった。黒髪モヒカン頭に日焼けした肌、そして黒い瞳。背中には大剣を背負っていた。団員達の稽古を監督していたあたり、おそらくは彼が団長なのだろう。
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