クズな君と恋したら

未遂事件






「じゃあ全員揃った班から下山の準備しろよー」



2日目___。

昨日青かった空は、嘘みたいに分厚い雲に覆われていた。



「下山した後、やっとホテルだ〜」



隣にいる心がワクワクした声をあげる。

昨日の夜、あれから綾都に「はいはい、さっさと戻ってクダサーイ」とテントに帰され、仕方がなくもう一度目をつぶると、不思議なことに一瞬で眠ることができたのだ。


あんなに目が冴えてしまってたのに。


それに……朝起きた時から、昨日の夜綾都に抱き締められている感触が頭から離れない。



「なんか夏芽、顔赤いよ?大丈夫?」


「きっ、気のせいだよ!そういえば、お腹すいたねっ、下山下山!」



必死で話をそらす私を心は不思議そうに見ていたものの、やがて話に乗ってくれるように。



「下山した後、ホテルでバイキング食べて船に乗るらしいよ!」


「ほんっとに楽しみ!」



よかった……うまく話をそらせたみたい。

一方、綾都はというと……。



「水上、お前まじでいい体してんな!?」

「ひょろくてチャラいと思ってたけどこんなんだったのかよ!」



綾都も、クラスの男子たちと仲良くなれたみたいだ。何を話しているかまでは聞こえないけれど、綾都も楽しそうにしゃべっている。



「よかった……」



綾都、ずっと女の子たちに囲まれているから、男子と関わる機会が少なかったはず。


だから、昨日のテントで仲良くなれたのかな。


その時___。





ポツッ……と、冷たいなにかが私の鼻に落ちてきた。

それが、少しずつ多く___



ポツポツ……




「雨……?」



そう気づいた時にはすでに、天気は曇りから雨に変わるほど、小さな雨粒が一瞬でまわりを濡らしていった。



「うそぉ……この雨の中下山するの?最悪なんだけど!」



そう嘆く心の隣で、事前にリュックに入れていた折り畳み傘を取り出す。



「心も入って」


「えーっ、いいの!?ありがとう夏芽っ」



それにしても、まさか雨が降るなんてなぁ……。

昨日、出発する前にテレビで見た天気予報は、ずっと晴れマークだったのに……。



「じゃあ、準備できた班から下山していけー」



まさかの天気に、少し先生も慌て気味。



「夏芽、班違うけど、入れてもらってもいい?」


「もちろん!」



傘を持っていないんだから、班に戻ったら濡れちゃうに決まってるよ。

緊急事態なんだから、先生もそれくらい許してくれるはず。



私と心は、人の流れに沿って下山ルートを歩き始めた___。







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