愛し、愛され、放さない
その日。
百合がマンションに帰ると、玲蘭が駆け寄り抱きついてきた。

「ただい――――っと…!!
玲蘭?どうしたの?」

「………」

「もしかして、今日会った友達に何かされた?」

「………」
首を横に振る、玲蘭。

「んー?じゃあ…ナンパとか?」

「…………
克広くんが…いて……」
百合を見上げ、切なく瞳を揺らす。

「………は?」
百合の雰囲気が、グッと落ちる。

「あ、愛実と会ってた時じゃなくて!
マンションに帰ってきた時に、マンション前でばったり会ったの……」
百合のただならぬ雰囲気に、玲蘭は慌てて弁解する。

「克広が?なんで?」

「わからない。
私、すぐにマンションに入ったから」

「そっか。
それにしてもなんで、今更……」 

元々克広とは高校卒業以来会っていなくて、玲蘭に出逢ったあの日が久しぶりだった。

しかも克広は、この街には住んでいないはず。

「………」

「………」 

「………ゆ、百合く…」
悶々と考え込む百合に、恐る恐る声をかける。

「ん?あ…ごめんね!
怒ってないからね!
とりあえず、中入ろ?」

玄関で話し込んでいた二人。
百合が微笑み、二人は手を繋いで中に入った。


その後、百合はずっと考え込んでいた。 

マンションの前でたまたまとはいえ会ったということは、この先も会う可能性があるということ。

(やっぱ、監禁しないと……)

百合は隣に座っている玲蘭を見下ろした。

「ん?百合くん?」

でも、さすがに受け入れないだろう。

「玲蘭」

「ん?」

「突然だけど、引っ越さない?」

「…………へ?」
突然の言葉に、玲蘭は固まる。

とにかく、克広から放れないと。
通勤に時間がかかることになっても、この場所から放れないといけない。

「言ったよね?
克広は、とんでもない奴だって!
それに、夜野からも放れられるし」

そう言うと、スマホを取り出し賃貸のサイトを検索し始めた。

「まずは、セキュリティ万全じゃないとね!
玲蘭もなんか希望があったら言って?
キッチンが広い方がいいとか!」

「わ、私は、別に……」

心の中では“そこまでする必要ないと”思っている。
でも、意見は出来ない。

ただ玲蘭は、百合を見つめていた。
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