続▪︎さまよう綸

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 以前一度だけ同行した高須不動産の慰安旅行。あれ以降も毎年4月の同時期に続いているが、会社の役員と社員だけでいいと言って正宗は行かなくなった。そして

「鞠子さんのとこ予約した」

 正宗が突然そう言ったのは吉宗が1歳10ヶ月の頃だった。

「会社で行くの?4月に慰安旅行はあったみたいだけど…それは鞠子さんに聞いたよ」
「いや、それはそれ」
「誰が行くの?」
「俺、綸、吉宗」
「えっと…正宗、もう少し具体的に教えて欲しいな」
「吉宗に海を見せてやる」
「うん」
「簡単にあちこちに泊まれないが鞠子さんのところならいい。ゴールデンウィークの後の宿泊客がいない平日を予約した。梅雨入り前だ。晴れたら足ぐらい海に入れるだろう」
「吉宗のために計画してくれたんだね。ありがとう、正宗」
「綸が何年も鞠子さんと会ってないのが気になってた。俺も航平は命の恩人だと思っている。それもあってな…」
「嬉しい、ありがとう」

 そう言って彼に抱きつくと

「一番に綸のため…当たり前だ」

 正宗はそう言い私の頭を胸に抱え込むと、静かに私の好きな声を耳に届けてくれる。

「綸の存在に感謝しない日はない」
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