続▪︎さまよう綸
 食堂に行くと綸は俺と座るのではなく、手伝っていないことを謝りながら台所の中へ入る。そして午後仕事がある人たちが先に食べてと、自分はもう済んだ皿の片付けを始める。

「綸ちゃん、また働いてんのか?わしも昼にする」
「はーい、先生。すぐに持って行きますね」

 俺も綸は働き過ぎだと思うが性分らしい。この頃は本家に5日マンションに2日くらいの割合で本家にいる。あんなに淋しいアパートにポツンと一人で死に仕度をしていたのが遠い昔のようだ。

「正宗、綸ちゃんを見つけてほんまに良かったな。わしが初めて見た時は車から飛び降りたって言うからどんな娘やと思ったけど、こんなええ娘はおらんわ」
「ああ…あの冷たいアパートで俺が見つけるのを待っていたんだと思う」

 綸は俺と一緒になるために生まれてきたのだと最近になってつくづく思う。俺の家業じゃ綸に親がいれば結婚に反対もされただろう。綸は苦労をしてきたが俺からすれば親、親族のしがらみがないのは好都合とも言える。綸のしてきた苦労の何倍もの幸せを、毎日欠かさず一生与え続けてやりたい。

 俺の愛する綸がずっと笑っていられるように。
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