続▪︎さまよう綸
「ああ…正宗…笑いすぎてお腹がまだ痛い、ふふっ」

 酔い気味で上機嫌の綸が部屋の前で俺に抱きついてくる。片腕で抱き上げ部屋へ入ると

「正宗、ありがとう。私は楽しかった…ここのみんなと会えて…会社の方は大丈夫そう?」

 俺の首に腕を回し心配そうに尋ねてくる。

「全く問題ない。綸のおかげで俺も佐伯たちに感謝を少しは伝えられたから助かった」
「それならいいけど…」
「あのあと皆、美味しく食べて飲んでたぞ。あの社員とも少し話した、問題ない。さっき潤からチラッと聞いた報告ではカラオケで盛り上がっていたらしい。自分も早く戻って歌うと潤の報告が適当だった…ふっ」
「厨房に戻ってきた鞠子さんと照代さんも1曲ずつ歌ったって言ってたものね」
「潤がカラオケ好きの小笹を誘った時が傑作だったな、くっくっ」

 宴会場の皆に許可を取り潤が小笹にカラオケを一緒にと誘ったのだが、小笹が残り少なくなった幻の酒とカラオケを天秤にかけ神妙な面持ちで悩んだ挙げ句、一升瓶を抱きしめた。

「正宗、やめてよ…あははっ…あれ動画に撮って本家で流したい珍プレー好プレーだよね…思い出したじゃない、ふふっ」

 笑う綸を座布団にそっと下ろし冷蔵庫から水を取り出す。蓋を開けて彼女に渡すと

「ありがとう」

 とコクコク一気に半分以上飲んだようだ。最後の一口が彼女の口からツーっと零れ首筋につたうのを見て

「綸、ここからは夫婦の時間だ」

 水を彼女の手から抜きとり、そのまま押し倒す。

「…正宗、ありがとう。今日がこんなに楽しかったのは正宗のおかげ…さっき少しだけ見たあの暗い海の中に…1年前は入っていけたんだ、私…恐ろしいね…私を見つけてくれて…生きる意味を与えてくれてありがとう。愛してる、正宗」
「俺はもっともっと愛してる、綸」
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