そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

終章

 風薫る五月も半ば。
 
 桜は散り、若葉の季節を迎えようとしていた。

 今年入社した子たちはそれなりに社会人が板についてきたようで。

 私は後遺症が残ることもなく、無事に退院して涼介さんの家へと戻ったのだった。

「随分、家を留守にしていた気がする。ほんの三週間くらいだったのに」
「その感覚分かる。一泊くらいの出張なら無いんだけど、それ以上だと、何故かすごく家を空けていた気になるのってなんだろうね」

 荷物をリビングに運びながら涼介さんは笑う。

「美里がいない間はすごく寂しかった。この家も広く感じたしね」 
「もともと一人暮らしだったじゃないですか」
「そうなんだよね。一人で住んでいた時は広いとは思わなかった。だけど美里と暮らし始めて、それに慣れ始めた頃に、急にいなくなったら妙に広く感じてね。あれも不思議な感じだよね」

 家は生きているって本で読んだことがある。

 住む人によって家が変わる。
 確かにそこに住む人間の好みによって部屋自体の内装、雰囲気は全然変わるのは理解できるし、賃貸住宅なら尚更なんだろうけど、どうやら持ち家もそうらしい。
 
 住む人がいなくなった空き家は、信じられないほどのスピードで傷んでしまうと言うから不思議だ。

 家そのものが呼吸し、そこに住む人と生きている。なんだか素敵な話。

 そして、以前と変わらず同じ場所に鎮座するグランドピアノ。

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