そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 男の人は中々実家に帰らないって聞いたことがあるけれど、山田さんちの息子さんたちはお母さんを大切にしていたと思う。
 下の息子さんは彼女と暮らし始めたばかりだから仕方ないにしても、お兄ちゃんの方はちゃんと考えてくれていると思うけど。

 花束を抱えながらぼんやりと、そんなことを考えてしまった。

「いけないっ!早く花瓶に入れてあげないと」

 洗面台の下をゴソゴソと探す。
 我が家にひとつだけある花瓶。

「あった!」

 ガラスのシンプルな花瓶。

 田舎から上京して、都会の暮らしを心配した母と一週間ここで過ごした時。

『ちょっとこの部屋殺風景じゃない?』

 そう言って、この花瓶とカーネーションの小さな花束を買ってくれたんだ。

「まさか、これを使う日が来るなんて」

 大学時代は今よりお金が無かったから、花を買う余裕なんて無かったし、今は今で忙しくてそんな心の余裕がなかった。

 それに切り花ってちょっと贅沢な気がして。

 花瓶にバラの花束を活けると…。

「綺麗…」

 一瞬でパッと部屋が明るくなった気がした。
 そこだけ輝いて見えた。

 バラの香りがゆっくり部屋に満たされると、心が安らいでくる。

「阿久津社長…本気なんですか?」

 古いアパートには似つかわしくない赤いバラの花束を見つめながら、私は呟いていた。

  
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