そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 そう言えば楓もそんなこと言ってたっけ。

『担当したお客さんには責任がある。相手の要望にはとことん答えたいし、私を信頼して話してくれているんだから、適当なことなんて出来ないよ』

 それに比べて私なんて、言われたことをするだけ。
 契約書は例外を除いて、ほとんどの場合ひな型があるから、それに沿って作っていけばいい。
 まったく責任がないわけじゃないけれど、涼介さんや楓に比べたら楽で甘い仕事に思えてしまう。

「美里?」

 心配そうな彼に首を振る。

「どうして泣いているの?」
「ごめんなさい」

 そっと私の肩を抱く彼の手。
 ドキドキするけれど、ちょっぴり甘えていいですか。

「話せること?」

 ただただ私は首を振る。

「俺では力になれない?」

 そんなことないです。だけど、これは自分の不甲斐なさの涙だから。

 彼の唇が髪に触れた気がした。

「今は言えなくても、辛いことはひとりで抱え込むことないんだ。だから、美里が言える時に話して」

 どうしよう。涼介さんが、彼が私の中でどんどん大きくなっていく。

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