もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

1 もう愛さないって決めたのに

 キアラ・リグリーア伯爵令嬢の二度目(・・・)の処刑が始まろうとしていた。

 処刑なんて別に初めての経験じゃないし、今さら断頭台なんてもう慣れっこなはずなのに。
 それでも観衆の罵声や憎悪の目、そして頭上の錆びついた刃物の恐ろしさはどうしても拭いきれなかった。

 ぬるりとした脂汗で、全身がガクガクと震える。
 拷問によってボロボロになった身体を力いっぱい動かして、貴賓席を見上げた。

「ダミアーノ様……」

 そこには彼女のかつて(・・・)の婚約者だったダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息。その隣には彼の今の(・・)婚約者であるマルティーナ・ミア子爵令嬢が、勝ち誇ったように笑みを浮かべてこちらを見下げていた。

 彼らは処刑場ではなくまるでピクニックにでも来ているみたいに、肩を寄せ合ってくすくすと笑い合っている。二人の愛情の滲んだ視線が交差するたびに、キアラの胸は締め付けられるように苦しかった。

 自然と涙が溢れ出す。悲しくて悔しくて情けなくて、心がどうにかなりそうだった。

「なぜ、またあなたを愛してしまったの……」

 処刑人の声が聞こえる。
 すると歓声が大波のように彼女を襲ってきた。

 刃が、落ちる。

 ――ぼとり。

 彼女の小さな頭が転がった。

「もう……愛さないって決めたのに…………」

 だけど、涙はまだ止まらない。

 キアラはダミアーノを憎んでいた。
 キアラはダミアーノを愛していた。


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