もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜






 ダミアーノは焦っていた。
 婚約者であるキアラとは、あの一件で揉めた以来、一度も顔を合わせていない。
 愛情の欠片も持っていないあの女と会えないのは構わないが、自分が出した手紙を無視されるのは癪だった。

 彼は両親から伯爵令嬢のご機嫌伺いを怠るなと命令されていて、定期的に手紙を出していた。
 いつもは三日もしないうちに返事が来るのだが、今は全くの梨の礫だった。もう三通も送っているが、婚約者からは一度たりとも返事が来ていない。

(茶会で怒らせたか? いや、それにしてもおかしい)

 ダミアーノの知るキアラは、自分に対して常に従順だった。
 何を言っても基本的に「イエス」でしか答えないし、彼のことを心から愛して、恋愛というものに依存している様子さえ垣間見られた。
 そんな純情な世間知らずの令嬢なので与しやすかったのだ。

 しかし、あの日は違った。
 婚約者は初めて自分に刃向かってきたのだ。

(マルティーナに嫉妬していると思ったが……もしかして感付かれたか?)

 キアラの態度はそうとしか思えない。完全に隠蔽していたはずが、一体いつ気付かれたのだろうか。

 いずれにせよ、今のままでは非常に不味い。不仲になったことが両親に露見したら、面倒なことになりそうだ。
 ミア子爵令嬢との噂も未だに消えず、公爵家として世間体も良くない。

 ――それに、計画も台無しだ。

(まだ早いと思ったが……仕方ない…………)

 次に婚約者に確実に会えるのは、皇太子の凱旋パーティーの時だろう。

 その日が、始まりだ。
 
 
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