もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

6 何かがある

「キアラ……」

 ダミアーノは婚約者の腰に腕を回して強く抱きしめる。

「ダミアーノ様……」

 キアラも婚約者の背中に腕を回して強く抱きしめた。

 ずっと忘れていた感情。なぜ私はこの優しい気持ちを無理に心の奥に押し込んでいたのかしら。
 こんなに素晴らしい気分なのに!

「ダミアーノ様、あの日は私のほうこそ申し訳ありませんでした。子爵令嬢にちょっとだけ嫉妬していたのです」

「いや、あれはオレのほうこそ誤解を招くような言動をして悪かった。これからは気を付けよう」

「では、仲直り……ですね?」と、キアラは心から微笑む。

「あぁ。仲直りだ」と、ダミアーノは偽りの笑みを浮かべる。

(落ちたな)

 彼の中に愛なんてない。一刻も早く、この場から去りたかった。
 いくら計画のためとはいえ、好きでもない女と愛なんて語りたくない。まぁ、身体だけなら味わってもいいが。

 ダミアーノはすっと立ち上がって、

「喉が乾いたろう? なにか飲み物を持ってこよう」

「あ、でしたら私が――」

「キアラはまだ体調が良くないだろう? 少し休んでいてくれ」

「ありがとうございます……!」

 私の婚約者はなんて優しいのかしら。

 ――と、一人になったキアラは些細な幸福を噛みしめる。次期公爵で、かっこよくて優しくて。自分にはもったいないくらいの方だわ。

(もったいない……?)

 そのとき、キアラの頭の中にふと疑念が浮かぶ。
 もったいない。私には。ダミアーノ様は、もったいない。

 ……では、誰が彼にもったいなくないの? 
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