もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

9 取引

「小麦の在庫、全部いただくわ」
「小麦の在庫を全て貰おう」

「えっ……!?」
「は……?」


 隣の男と見事に声が重なって、キアラは驚いて声の主を見上げる。

 その男はがっしりとした体格で背丈もあり、黒いフードを深く被って同じく黒い仮面を付けていた。
 彼は正体を隠しているようだったが、明るい照明のもと、鮮やかな金色の髪とエメラルドグリーンの瞳がはっきりと分かった。

 キアラにはこの男に見覚えがあった。

(レオナルド・ジノーヴァー皇太子殿下……!)

 間違いなかった。ここ数週間で二回も遭遇したのだ。それもかなりの近距離で。

(それに、皇太子殿下の強いマナを感じる…………マナ?)

 キアラは首を傾げる。魔力のない自分が、なぜ相手のマナを感じることができるのだろうか。絶対にあり得ない話なのに。

 でも、今この瞬間も、皇太子の強いマナを感じる。

 それは巨大な竜巻みたいな恐ろしい量だと、手に取るように分かった。彼の尋常ではない強さを肌で感じて、改めて只者ではないとおののいた。
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