もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「そうか……」

 彼は彼女の話を一通り聞くと、押し黙って思案する。彼女は祈るようにその様子を見守っていた。

 少しして、

「では、私がその手切れ金を立て替えよう。それなら、君の意思を無下にすることもない」

「えっ!?」

「なに、難しく考えるな。よくある借用書の譲渡のようなものだ。
 婚約解消は早ければ早いほどいいだろう? だから先に私が支払いを済ませ、君が私に返済をする。なので結果的には、君が手切れ金を払うのと変わりない」

「それは……」

 僥倖だった。彼女としてもさっさと婚約者とおさらばしたい。

 しかし、こんなに簡単に離れるとなると、復讐はどうなるのだろうか。
 憎き婚約者に確実に報復するためには、まだ彼と繋がりがあった方が良いのではないだろうか。

「そうだ。私から君に一つ頼みがある」

 渋面を作って考え込むキアラの意識を起こすように、レオナルドが声を掛ける。

「私は皇后派閥を壊滅させたい。その中には当然ヴィッツィオ公爵令息も含まれる。……君も、手伝ってくれるか?」

「っ……!?」

 にわかに希望が顔を出す。

 ダミアーノへの復讐。
 それこそ、彼女の一番望んでいたことだ。

 皇太子はそれを分かっていて、提案してくれているのだろうか。自ら頼み込むことによって、相手の尊厳を傷付けないように。

(なんて優しい人……!)

 レオナルドのさり気ない思い遣りが、彼女の胸をそっと温めた。


 キアラは赤い瞳を燃え上がらせて、

「はいっ……! もちろんですわ、殿下!」

 まっすぐに、はっきりと答えた。

 レオナルドはニカッと少年のように笑って、

「では、契約成立だ。我々の、仮の婚約の」

「仮の……」キアラも元気に笑う。「えぇ、仮の婚約です!」

 二人は誓い合うように、固く握手をした。
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