完璧主義な貴方の恋のお相手は、世話が焼けるくらいがちょうどいいでしょう?
「……遅い」

 リチャードは苛々していた。窓の外と時計を交互に見比べては溜息を吐く。

 本当だったらこっそり後を尾けようと思っていたのに、すんでの所でテレサに見つかってしまった。

 どうにか誤魔化そうと試みたのだが、テレサにはリチャードのやろうとすることなんてお見通しだったのだ。挙句に、彼は紳士的だから大丈夫ですよ、なんて釘まで刺されてしまい、彼女もすっかりコールに騙されているようだ。

 いてもたってもいられずに、リチャードはこっそりと外の門まで出てこうとした。すると、二つの影が揺れたのが見えた。

 リチャードは慌てて物陰に隠れるた。姿は見えないが、かろうじて声だけは聞こえる。

「コール、やだわ。もう少し待って……」
 
 どうやら向こうも声を潜めて話しているようだった。心なしか二人の距離感も縮まってるような気がする。くすくすと笑いながら、何やらすごく楽しそうだ。

「君って本当に大胆だよね」

 ーー大胆?

 リチャードは耳を疑った。

「あら、知らなかったの?」

「君みたいな女性は初めてだよ」

「私だってあんな……やだ、思い出しちゃったわ」

 シェリーは何やら楽しそうに、またくすくすと笑っている。

「こんなに濡らして……リチャードに怒られるわ」

「……お嬢様!?」

 耐えきれずに、リチャードが飛び出すと、目の前には頭の先から爪先までびしょ濡れの二人が立っていた。

(……雨も降っていないのに?)

 これは一体どういう状況なのか考えあぐねていると、シェリーがおずおずと口を開いた。

「あの、怒らないでちょうだい……」

 シェリーの願いも虚しく、二人はリチャードにはこっぴどく叱られることになった。


「……まったく、いい大人がどうしてこんなにびしょ濡れで帰ってくるんです?」

 コールの服を乾かしながら、リチャードはぐちぐちと文句をこぼしていた。当のコールといえば、リチャードの服を我が物のように着こなしている。

「だって、彼女ってば大胆なんだ。川岸ぎりぎりから投げたんだよ。ほとんど川に入っていた、あれは反則だったと思う」

 こうやって、とコールは興奮気味にジェスチャーを交えて訴える。

 どうやら石切をしていたらしい。リチャードはほっと胸を撫で下ろした。一瞬でも馬鹿な妄想をした自分が恥ずかしい。

「貴方こそ、もっと大きな石でチャレンジしてみるなんていうから驚いたわ。そのせいでこうなったのよ」

 シェリーはそう言うと、またそれを思い出して笑っている。こんなに大きいのよ、と無邪気にリチャードへ両腕を広げて見せた。

「こんなに刺激的なデートになるとは……まったく、君みたいな子は本当に初めてだ」

「でしょうね」
 
 リチャードはすかさず同意した。初デートで石切りをして、全身びしょ濡れで帰ってきたという話なんて聞いたことがない。

「私もとても楽しかった。本当にありがとう」

 二人は随分と親しげだった。目を合わせて、時折微笑み合っている。たった数時間でこうも仲が深まるものだろうか。

「……ほら、もう乾きましたよ」

「え、まだ少し濡れてない?」

 リチャードはコールの服を乱暴に投げ渡した。まだ乾ききっていないことに気付いてはいたが、これ以上シェリーの近くに置いていては危険な気がする。

 コールの不満そうな声は友人として申し訳ないが、聞こえなかったことにする。

「それじゃあ、シェリー。楽しかったよ、またね」

 コールは素直に半乾きのシャツに着替え、素早く身支度を整えた

「ええ、私も楽しかった。またね」

 コールはごく自然な素振りでシェリーの額にキスをした。彼女も戸惑う風でもなく、親しい友人として受け入れているようだ。

 リチャードが二人の距離感を心配そうに見つめていた。
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