龍神様のお菓子

抹茶タルトのお姉様

「で?何しに来たの君?」

 椿庵に到着早々、龍青は少し苛立った様子で昴の顔を覗き込んでいる。身長差の変わらない二人だと思っていたが、こうやって並んでみると、龍青の方が頭一つ分背が高いことに夢香は純粋に驚く。

「バイトですけど…」

「へぇ?どこに?」

素直に答える昴に龍青は意地悪く尋ねる。

「龍青さん、仰ってたじゃないですか…、昴君も雇ってくれるって!」

 夢香は少し怒った様子で頬を膨らますと、「この前の話が嘘だって言うんなら私本当に辞めますから!」と言って昴の腕を引っ張った。
 
「ちょっと待てよ、冗談だっつうの…。本気にすんな」

「今のは冗談ではなく意地悪といいます」

「…」

 ツンとそっぽを向く夢香の態度に龍青は困った様に黙り込む。まさか、本気で怒るとは一ミリも思っていなかった様である。

「はい、はい、そこまで」

 そんな三人?の様子を見かねたのか、どこからともなく一茶が手を叩いて現れた。

「龍青、あまり意地悪をしていると本当に嫌われてしまうよ?人手は多い事に越したことはないだろう?」

 一茶の言葉に「ちょっと揶揄っただけだっつうの…」と龍青は拗ねた様子でキッチンへと姿を消した。

「松木さん、戻ってきてくれて嬉しいよ。それから君が小鳥遊君だね。歓迎するよ。丁度桜が居ないから色々と手伝ってもらいたい事が多くてね」

「桜さん体調でも悪いんですか?」

何となく、桜の不在が気になった夢香は一茶に尋ねる。

「いや、材料の調達に行ってもらってるんだ。実は嬉しい事に午後から客足が絶えなくてね、色々と在庫が無くなってしまったんだ。それで材料を買い足しにいってもらってるのさ」

確かに店内を見渡すと、所々欠品が目立っている。

「凄いですね…、無くなったら都度作って店頭に並べているんですか?」

「まぁ、どんな人にも手が届く菓子を作るのがこの店の売りだからね。せっかく来てもらったのに欠品で食べてもらえなかったら残念だろ?」

その言葉に夢香は妙に納得する。

「も、もしかして、今も待たれてるお客様とかいるんじゃ…?」

「いや、今は居ないんだけど、このままだと、この後に来るお客様をお待たせする形にはなりそうだね…」

一茶は困った様に眉根を寄せた。

「だから、君達にも色々と手伝って欲しいのさ」

 一茶の言葉に夢香は「直ぐに着替えてきます!」と敬礼すると一直線に更衣室へ姿を消した。

「あの、俺は…」

 残された昴は所在なさげに尋ねる。

「君には制服を渡さないとね。それから私のことは一茶と読んでくれて構わないから、何か分からないことがあったら気さくに声をかけておくれ」

「小鳥遊昴です。なんか、突然押しかけてしまいすみません…。お世話になります」

 二人は簡単に自己紹介を済ませると、夢香同様に更衣室へと姿を消した。
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