龍神様のお菓子

再び

「本当に俺も連れてきていいって話になったんだよな?」

昴は電車に揺られながら、訝しげに夢香に尋ねる。

「うん、龍青さんにも今日行くって連絡してあるし…、多分大丈夫」

「どういう心境の変化だよ…」

 朝一、息を切らしてやってきたかと思えば「昴君やっぱりバイトしない?」なんて言うものだから、昴は理解が追いつかぬまま電車に揺られている。ちなみに今日は体育館の補修工事により部活は中止となった。

「いや、私は本気で辞める気だったんだけど…龍青さんに色々と説得されちゃって…」

 昨日の強引な決定に、何となく出向かなくては後が怖いような気がした夢香は苦肉の策で昴に声をかけたのだ。

「ほんとに俺と一緒でいいって言ったのかよ」

「うん…、昴君雇ってあげるっていってたし、なんなら他にも連れてきていいって」

ちなみに女の子ね、と付け加えると昴は「だろうな…」と小さく呟いた。

「で、でも、椿庵の人達皆んないい人だったよ!きっと昴君も直ぐに馴染めるよ!」

「お前はその雰囲気が嫌んなったんじゃねぇのかよ…」

昴は呆れたように、手すりに体重をかける。

「そうなんだけど…。でも悪い人達じゃないから」

夢香は申し訳なそうに微笑む。

「ま、俺は正直雰囲気とかどーでもいいけど」

 この際、給料が入れば職場の人間関係や雰囲気など昴にとっては、ほとんどどうでもいい話である。

「…」

「んだよ…」

「なんか昴君、昔と本当に印象違うね!昔はもっとお友達に虐められて泣いてた様な記憶が…」

口元に指を当てて、昔のことを思い出す夢香に昴は慌てて反論する。

「そりゃ、大人になれば変わるってーの!昔の俺は、その…なんだ、優し過ぎたんだ」

よくわからない言い分に夢香はクスクス笑う。

「何がおかしいんだよ…」

「いや、昴君かっこよくなったなって」

「なっ!?!」

突然の賞賛に昴は顔を真っ赤にする。

「褒めても何もでねぇーよ」

「あー照れてる?」

「照れてねぇ!」

 明らかに揶揄われている。そうと分かっているのに昴は夢香の顔を見ることができなかった。その理由はよく分かっている。昴は夢香の事が好きなのだ。それも虐められっ子だった昔から。

隣で楽しそうに笑う夢香に昴は目を細める。

「でもさ、昴君ってそんなにお金に困ってたの?部活もやってるのにバイトしたいだなんて」

「…いい男は色々と金がかかるんだよ」

「何それ!」

 あの男だけには絶対渡したく無いと思ったが故に嘘をついた、だなんて言えるはずがない。

「じゃあ、ちゃんと働かないとね!」

夢香の笑顔に昴は再び頬を赤らめた。
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop