龍神様のお菓子

龍神様の告白

 夕暮れ時、外ではしとしとと雨が降っている。夢香は一つ欠伸をすると壁に掛かっている時計を見上げた。

あと五分かー、

 気づけば、あと五分で本日の勤務が終わる事に時の流れは早いものだと痛感する。
 結局あれから、桜に話を聞く事は出来なかった。

「松木さん、そろそろ上がっていいよ」

 心ここに在らずといった様子でレジに立つ夢香に一茶は声をかける。

「あ、はい。お疲れ様でした」

「大丈夫?調子悪い?」

「いえ!大丈夫です。お先に失礼します」

 胸の内を悟られたく無かった夢香は小さく頭を下げると、制服を着替えて早々に店を後にした。結局、今日はほとんど龍青と会話が出来なかったことに、小さくため息を吐く。

どうして自分はこんなにも、彼に期待しているのかー?

 雅に会ってからというものその問いが頭の中をぐるぐると回っている。

「龍青はさ、ちょっと諦めてたんだよねー。」

 桜の言葉が何故か頭をこだまする。もしかしたら、私は本当に悪い女なのかもしれない。必死に探してくれた人達のことを何一つ覚えていないなんて…。
 夢香は傘もささずに、駅までの道のりを歩く。髪は次第に濡れそぼり、額には雫が幾つも流れ落ちる。

私は、一体何を忘れてるー?

その時だった、夢香の頭上に大きな傘が差し出された。
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