放課後怪談クラブ

プロローグ

 市立神山中学校の放課後は、こわい。
 こわい。と言ってもホラーってわけじゃなくて、めんどくさいって意味である。
 なので、ここに通う私は放課後がおそろしくて仕方がなかった。

「おー! レミおそかったじゃん!」

 旧校舎4階の一番はじっこにある部室の部屋を開けると、声が飛んでくる。
狭い部室の真ん中に置かれた長テーブル。
 その左右に2脚ずつ並べられたイスの右奥で背もたれによりかかる男子。
 声の主はクラスメイトのアキラだった。

「しょーがないでしょ。日直だったんだから」

 私はフンと顔をそむけてアキラの横に座る。
 すると向かいに座っていたヨーコがニコニコしながら小首をかしげた。

「誰かにあとをつけられたりしなかった?」

 言葉は優しいけど、その血の気のない顔に私はゾッとする。

「え、えぇ。まぁ大丈夫だったけど……」

 ちょっと笑顔がぎこちなくなってしまった。早く顔をそむけたい。
 ヨーコが優しく笑ってる時は機嫌が悪い時だ。
 そして、その原因はおそらく……。

「あん? 何見てんだよ。血吸うぞ」

 ヨーコのとなりに座っていたミノルが大口を開けてキバをむく。
 ついでに真っ黒な羽をバッサバサとはばたかせた。

「ちょっ! やめてよ! じゃま! ほら、ヨーコにも当たっちゃうから!」

 私が手を振ると、ミノルは「ちっ」とつまらなそうに舌打ちをして羽をしまった。
 ふー、とため息。そして横を見やる。
 ケラケラ笑っているアキラのまわりには人魂が浮いている。
 ヨーコは首をグルリと1回転させて、首がとれた。
 慌てもせず首を拾い、くっつける。私たちはそれに今さらおどろきもしない。
 そう。アキラは幽霊、ヨーコはゾンビ、ミノルは吸血鬼、そして私は人間。
 以上、4名が神山中学校非公認クラブ「放課後怪談クラブ」のメンバーなのです。
 申しおくれました。

 私は神山中学1年生「水沢レミ」と申します。

 ちょっとだけ人より霊感が強かったせいで、この3人に無理やり入部させられたかわいそうな女の子です。
 ……だって、じゃなきゃ「呪う」って言うんだもん!
 ゾンビに吸血鬼に、ましてや幽霊にそんな事言われたら逆らえないじゃん?

「なので、私は学校がある日は毎日こうして部活に顔をだしているのです……」

「あん? なんか言ったか?」

「いいでしょ、ほっといて……」

 またもや舌打ちをするミノルに気づかれないよう、私はため息をついた。
 まぁいいや。
 とにかくこのクラブの活動は非公認。
 ミノルが変な術を使って、うまくこの場所はバレないようになっている。
 そして、他の人は誰もミノルの羽やキバも、アキラの人魂も、ヨーコの取れる首も見えていない。
 どうして?
 答えは簡単。


 この人(?)たちはこの世の存在じゃないからです!


 どうやらこの3人は「裏世界」という別の世界からこっちに遊びに来て帰れなくなったらしい。その影響かはわからないけど、こっちでは「普通の人間」に見えてるんだって。
 そんで、それを初めて見やぶった人間が私。
 おかげでこの3人を元の世界「裏世界」に帰す手伝いをさせられるハメになりました。
 あ、ちなみに彼らがこの世界にやって来たのは入学式の日。
 またもやミノルの変な術のおかげでヨーコとミノルは2年生。
 アキラは1年生としてひとまず入学している。
 ……まったく迷惑な話だよね。


「で? 今日は何を確かめるわけ?」

 私がカバンを床に下ろすと、みんなも同じように下ろす。
 そこへアキラが一枚の紙を出して、テーブルの中央に置いた。

「最近、ウワサになってるんだよここ」

 それは校内図だった。
 新校舎の3階のある場所に「〇」がついている。

「んー? ここ、どこ?」

「よく聞いてくれたレミ! ここは男子トイレだ!」

 よく聞いてくれたって、アキラ……男子トイレって言いたくてウズウズしてたの?
 とは口にせず、話の続きをうながす。
 ミノルもヨーコも真剣な表情だ。

「最近、放課後に誰も居なくなると、ここからうめき声が聞こえるらしいんだよ」

 アキラが言うと、ミノルはニヤリと笑う。

「なるほど。あやしいニオイがプンプンするな」

 トイレだけにね。とは言わないわよ。

「でも、私は女子だしなー……」

 ヨーコはあんまり乗り気じゃないみたいだ。
 たぶん、ミノルに何かめんどくさいからみをされたにちがいない。

「そっかー、まぁでも良くね? 誰も居ないんだからさ。なぁ?」

 とアキラはこちらに向く。
 いやいや、なんで私に同意を求めるの!?
 私だってちょっとくらい恥じらいあるんですけど!?
 女子なんですけど!?

「なんだよレミもノリ悪いのかよ」

 私がだまってるとミノルはつまらなそうに頭の後ろで手を組んだ。

「じゃー、まぁ仕方ないか。ヨーコとレミは入り口で待機ってことで!」

 アキラはそんな空気を察してか、話をまとめて立ち上がる。

「んじゃ、さっそく行ってみよー!」

 私たちは4人かたまって、ダラダラと新校舎の3階を目指す。
 ミノルがなんかへんなけむりを手から出してるけど、これはどうやら目くらましらしい。
 ほんっと、コイツの術ってよくわからないものばかりだ。
 まぁ、おかげでただの人間である私もバレずにこうして放課後の学校に居られてる。
 それは確かだ。居たいとは一言も言ってないけど。
 でも、完全下校時刻を過ぎて誰も居なくなった学校は好き。
 朝と昼とは全然違う景色になって、まるで別世界に感じた。
 確かに一緒に居るのは別世界のやつらなんだけどさ……。

「ついたぞ」

 と、アキラが立ち止まって、私は現実にもどる。

「あん? なんも聞こえねーじゃん」

 ミノルは耳をすませる。
 確かに私にも何も聞こえなかった。
 うめき声どころか、シーンとしてて何の音も聞こえない。

「んー? おっかしいなぁ。まぁひとまず行ってみよう。ミノル」
 アキラが首をかしげながら男子トイレに入っていく。
 ミノルもそのあとを追って、私とヨーコはその背中に力なく手をふった。

「……ねぇ、ヨーコ」

 手を下ろして、私はジッとトイレを見つめる。

「……どーしたの?」

「私、ずっと気になってたんだけどさ」

「……うん」

「誰もいないのに、誰がうめき声聞いたの?」

 言いながら横に向く。いつもの無表情のヨーコもこちらに向いた。
 私たちはおたがいに見つめ合う。

「……ほんとだ」

 ヨーコの表情は変わらない。彼女は本当に感情がない。
 唯一、イライラしてる時だけ笑うから、ほんと不思議なゾンビだなって思う。


 ――――結局、男子トイレには何もなかった。


「だー! くそ! 鬼門が開く時は人間のうめき声に似た音がするからビンゴだと思ったのによー! まさかのデマカセじゃねーか!」

 部室にもどるやいなや、ミノルは羽をバサバサしながらヨーコの首を回す。

「ちょっと、やめなよもう!」

 あわててそれを止める私。またヨーコが機嫌悪くなっちゃうじゃん。
 ヨーコは機嫌悪くなるとすっごくこわいんだから! 霊的な意味で!

「まぁまぁ。空振りはいつもの事だし。また別のウワサを探そうぜ!」

 アキラはにこやかに言うと、イスに腰かけた。
 彼もそう言ってくれたおかげで、ようやくミノルも落ち着く。
 そうしてまた元の位置に座った私たちは今日の出来事をたがいに話し合うのだ。
 そして、その中から「鬼門」のヒントを探す。
 鬼門って言うのは「裏世界」への出入り口らしい。
 3人はここに開いたんだから、またここで開くはずだって言ってる。
 よくわからないけど、ワープホールみたいなもんなのかな?
 私はブラックホールみたいなものを想像しているけど。
 人のうめき声を鳴らしながら開くブラックホールってマジでホラーだよね。
 この3人の事は見なれちゃったけど。
 普通に考えて首とれるってけっこう怖いよね。
 でも、ヨーコはすっごい美人だし、体型もめちゃスマートでモデルみたいだから怖いよりカワイイが勝ってるかな。
 アキラはスポーツマン。幽霊なのに、めちゃめちゃ元気。
 ミノルは俺様キャラだけど、イケメン。だから色々周りの女子も許してる。
 私?
 私は……どーだろ? って3人に聞くのもなんかヤダな。
 なので、そちらで判断してください。


 ……そんなこんなで「放課後怪談クラブ」は今日もいつも通りです!
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