助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『生きることに、苦しんでおるのだね……。だが、価値がないなんてそんなことはないさ。お前さんにも、大切にしてくれる家族はいるのだろう? それに、出会いを待つ人々だってたくさんいる……。少し眠っているといい。あの子を連れてくるから』
「あの子……? その人は、俺の……友達になってくれるだろうか。本当の俺を、見てくれるのかな」
『大丈夫さ。あの子は……メルは、失うことのつらさを知る、とても優しい子だから――』

 誰かの手が頭を撫でてくれた気がした。
 痛みが遠のいて眠気が急速に強くなり、青年は不思議と安らかな気持ちでまぶたを閉じる。さわさわと風が木の葉を通り抜ける音がそのまま子守歌となり、気配が遠ざかってゆく。
 夢のような出来事だった。だが夜が明け、隙間から射してきた木漏れ日に包まれていると、不思議とさっきの誰かの言葉を、信じてみようという気になって……。
 青年は、穏やかに息を立て始めると……ゆっくりと眠りについた。
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