助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

(エピローグ)

「ふんふんふふ~ん、ふんふふん」

 盛夏に青々と茂る森の草木に囲まれながら、一人の女性が林道を鼻歌交じりに進んでいる。夏場だというのに黒いローブ姿、背中には使い古したリュック、頭には黒いとんがり帽子が先を垂らしている。

 迷いもせず彼女は、木々の間をすり抜け、目的地へと向かってゆく。
 途中で鹿の群れや猪に出くわすが、どの獣も警戒せずに、彼女が通り過ぎるのを見送っていた。

「チチッチ」
「うん、今日もよく売れてたね、薬」

 魔女メル・クロニアは肩口に駆けあがったリスの頭を撫でると、嬉しそうに笑ってみせた。

 ――あの大騒動から五年。

 ナセラ森にやっと戻ったメルは、少し荒れた家を改修すると、また、元通りの生活を始めた。家の裏手の菜園で野菜やハーブを育て、使えそうな木を拾って薪にし、時には薬を煎じたりして、気が向いた時にサンチノの街に出向きそれを売る。メルが作る美容クリームは、今では薬屋の一番の人気商品になった。
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