めぐるの耽溺日誌
めぐるの恋慕

私、雪平 恵留の趣味は人間観察だ。


自分でも陰気な趣味だと思うけれど、人の仕草や癖を見るのが大好き。


例えば、そう……同じクラスで学級委員の倉木さんは、意外と神経質で、どこかに触れるたびにこっそりハンカチで毎回手を拭ってたりする。


そして、動揺をすると舌で唇を舐める癖がある。


あとは、朝比奈君は三咲さんと付き合ってたり、慎君は家庭科の白石先生とこっそり密会してるのも知ってる。


皆、隠してるつもりだろうけど、私には分かる。


皆のこと、よーく見てるから。




(あ、谷口先生……教室に入ったら今日も倉木さんの方を始めに見た)


こういう小さな出来事を私の大切なノートに記していく瞬間が一番楽しいんだ。




「きゃっ!」


「あ、ごめんね?大丈夫?」



机の上に並べていた参考書を片付けようとしていると、机にぶつかり本が落ちてしまった。


申し訳なさそうに目を細めて、少し口角をあげて笑う彼に見惚れてしまう。



「だ、大丈夫……参考書落ちただけだから……」


「怪我はしてない?」


「うん……大丈夫……」




黒髪に柔らかい笑顔。


整った顔立ちからは色気も感じさせる不思議な人……

彼……向坂 佳都君は、私が今一番見ている人だ。


思わず向坂君を見つめていると、彼は床に落ちた参考書を拾い上げ綺麗に微笑した。




「はい。勉強、頑張ってね」


「あ、ありがとう……!」




(あぁ、好きだなぁ……)



彼の表情、匂い、声色、仕草、顔、身体。


全部が好きでたまらない。



彼の全てを私だけが知れたら、どれだけ幸せなんだろう。



でも、私は彼の事をなにも知らない。


なぜなら、彼には隠してることがないから。


一年生の時からずっと向坂君を見ているのに、なにも見つけることが出来ない。

唯一分かってるのは、穏やかな性格と、人とは一定の距離感で関わっていることだけ。




(好き、好き、好き……)



彼は私の憧れであり、大好きな人だった。


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