Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

5 女子の本音

 高臣と別れた杏奈はエレベーターの壁にもたれかかり、大きなため息をついた。

 あぁ、どうしよう。とんでもないことをしちゃったわ……。久しぶりに使った筋肉と股関節が痛み、下半身が重くて仕方ない。

 しかし体はこんなに不調なのに、気分は恐ろしいほど満たされて頭はスッキリしている。

 ずっとそういう行為をしていなかったし、もしかして自分が思っている以上に欲求不満だったのだろうか--そんなことを考えながら首を傾げる。

 家に戻った杏奈は、キッチンカーの手伝いに行くための準備を始めたが、ワンピースを脱いで鏡の前に立った途端、自分の体に刻まれた昨夜の記憶に体が熱くなった。

 体の至る所に付けられたキスマーク。元カレには一度だって付けられたことはない。それがたった一晩でこんなことになるなんて……彼も相当溜まっていたとしか思えなかった。

 頭に思い出されるのは彼の熱に浮かされた瞳、熱い吐息が漏れた唇、杏奈を快楽の世界へ導いた舌遣い、果てる時の表情--想像しただけで彼の腕の中にいた時間に引き戻されていく。

 でもどうして彼は私を抱いたんだろう。何度も『愛してる』と言ってくれだけど、そんな言葉は到底信じられない。

 だって高校時代、あれだけ無視してきた人なのに、何をどうしたら"愛してる"なんて結論になるのだろう。

 もはや別人としか思えない。同一人物だとしても、この十年の間にどこかで頭を打って記憶が飛んだに違いない。

 そう思えるくらい、高臣が杏奈を好きだと言うには現実味がなさすぎた。

 もしかしたら騙されているのかもしれない。動画を撮られていて、脅しの材料にでもするつもりだろうか--いや、YRグループの専務がお金に困っているはずはない。

 それなら体の関係を強要するとか? いや、彼の相手に私じゃ役不足よ。むしろ彼の愛人になりたい女性なんて五万といるわ。

 じゃあ何のために? 本当に愛してる? やっぱりそんなこと信じられない。でも一番信じられないのは、大嫌いと言いながらも、彼を拒まなかった自分自身だった。
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