Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「……実は……話をしたのがホテルの部屋の中で……」

 その言葉だけで紗理奈は何かを察したかのように顔が青ざめていく。

「えっ、ちょっ、ちょっと待って! ま、まさか……しちゃったわけじゃないよね……?」
「……そのまさかなんだよ……」

 杏奈は自分がどんな顔をしているのか知られたくなくて、両手で顔を押さえた。

 しかしそれを勘違いして受け取ったのか、紗理奈の表情はみるみるうちに怒りを滲ませていく。

「それって無理矢理ってこと⁈ 信じられない! 杏奈、警察に行った方がいいって!」
「警察⁈ いやいや、違うのよ! そうじゃなくて私も流されちゃったというか……彼を拒めなかったというか……」
「はっ? 本気で意味がわからないんだけど。だって目の前の若い女にロックオンして、自分の欲望のために抱いたんでしょ?」
「紗理奈ちゃん、なんかすごい言葉のオンパレードになってる」
「違うの?」

 杏奈は思わず口を閉ざす。何故か彼の肩を持ち、紗理奈の言葉を否定しようとしている自分がいたからだ。

「……前に紗理奈ちゃん言ったじゃない。『今の杏奈なら誰もわからない』って。なのに彼、私が誰なのかすぐに見抜いたんだよ。しかも私のこと好きだったって言って……」
「そんなの男の言い訳でしょ。ただ性欲のはけ口にするための自分の正当化に過ぎないよ。まぁでも確かに杏奈を見抜いたのはびっくりだけど。でもあの由利高臣だよ。ずっと杏奈に無関心で冷たい態度を取り続けていた奴が、なんでいきなり好きとか言うわけ? 絶対に信用出来ないんだけど」

 紗理奈の言う通りだと思うのに、朝まで愛を囁かれながら抱かれたせいだろうか、少なからず彼に対して情が湧いているのも事実だった。
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