Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 高臣が運転する車は今日もベリが丘の街に入っていく。

「もしかしてあなたの家って……」
「あぁ、ノースエリアにある」

 杏奈は妙に納得した。ノースエリアとはベリが丘の中にある高級住宅街。入口の門には守衛まで立っているというセキュリティの高さも有名な場所だった。

 やはりYRグループの専務ともなれば、住まいも高級住宅街になるのは当たり前だ。実家が弁当屋の杏奈とは生活水準が違いを感じてしまう。

 でもポジティブに考えれば、こういう経験は一人では出来ない。貴重な体験をさせてもらっていると思えば、前向きに受け止められる。

「ご家族と住んでるの?」
「いや、流石にこの年齢だしね。家は出てるよ」

 そんな他愛もない話をしている間に、車はまるでリゾート地のような外観の一軒の建物の駐車場に入っていく。

 車を停めた高臣は先に外へ出ると、助手席側から降りようとした杏奈に手を差し出す。戸惑いながらもその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

「ありがとう」

 杏奈からのお礼の言葉が嬉しかったのか、高臣は優しく微笑む。それから手を繋いだまま店の入り口に向かう。

 店の男性従業員がドアを開け、二人に対して丁寧に頭を下げる。

「由利様、お待ちしておりました。本日は個室で承っておりますので、こちらへどうぞ」

 高臣は頷くと、杏奈の手を引いて従業員の後について歩いていく。杏奈は慣れない雰囲気に戸惑ったが、高臣の手がしっかりと導いてくれていたので、少しだけ安心出来た。

 テーブル席がある方向とは反対側に進み、突き当たりの少し手前にある、まるで隠し通路のような廊下を歩く。客席の中を通らないことで人に見られる心配もなくなる。プライベートを守りたい人にとっては素晴らしいシステムだと思った。

 一つの扉の前で男性従業員の足が止まり、ドアを開けて二人を中へと促す。白の塗り壁に、ウォルナットの腰板。壁には小さめの絵画が数枚掛かり、テーブル席を囲うように透けるカーテンが天井から吊り下がっていた。ガラス製のペンダントライトは温かな光を部屋へと放つ。

 まるでヨーロッパのリゾート地のような雰囲気に、杏奈の心臓は大きく高鳴った。

「素敵……」

 思わず口から漏れると、高臣は杏奈の手を引き、席まで誘導して椅子に座らせた。
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