Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「やっぱり伝わっていなかったんだな。ただあの頃の俺にはあれくらいしか出来なかったんだ。だから仕方ないかもしれないが……」

 残念そうな表情で項垂れた彼を見て、杏奈はようやく視界が拓けたような感覚に陥った。

 今までガラス越しに見ていた世界。そのガラスが取り払われ、ありのままの姿を捉えることが出来た。

 高臣が杏奈のために吉村を注意してくれていただなんて、今までの杏奈の頭では想像すら出来なかった。

 だが説明されれば、確かに頷けることが多々あるような気がする。

「どうだろう。そろそろ俺を信用する気になれたかい?」

 高臣の手が伸びてきて、テーブルの上に置かれていた杏奈の手をそっと握った。彼に包まれる感覚に、息が苦しくなる。

 まるで懇願するかのような目で見つめられ、杏奈は複雑な胸中にどうしていいのかわからなくなる。

 ずっと彼を嫌い、憎んでいた。それなのにいきなり過去のことは誤解で、むしろ自分のために動いてくれていたと知ったところで、いきなり自分の感情を変えることは難しい。

 なのに、昨日から高臣の熱く優しい一面に触れ、心が徐々に溶かされている自分がいた。

「あなたが知っているのは、保健室でお喋りをしていた私でしょ? あの頃とはだいぶ変わったはず……」
「そうかな。杏奈は杏奈だよ。変わったとしても、根底にいる杏奈は何も変わらない」
「でも……たったそれだけの出来事で、好きなんて気持ちに発展するの……?」
「するよ。俺は本当の杏奈に恋をしたんだから」

 なんて真っ直ぐな言葉だろう--杏奈は彼を信じてもいいと思い始めていた。だって彼の言葉には嘘が見えなかったから。

 杏奈は自分の手に重ねられた高臣の手に、更にもう一方の手を重ねる。そして恥ずかしそうに俯いた。

「あなたを信じてみようかな……」

 その瞬間、すかさず杏奈の唇は高臣に塞がれてしまった。
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