Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

7 五分後の熱情

 高臣のキスは、今までとは違う優しさと情熱を含んでいた。お互いに身を乗り出し、貪るようにキスを続ける。

 呼吸が乱れ始めた頃、二人の唇がわずかに離れた。今すぐにでもキスを再開したいのをグッと堪えた。

「あぁダメダメ……ダメなの……また流されちゃいそう……。今日は流されないって決めたんだから」
「そんなこと決めていたんだ」
「決めてたの。だからメイク道具も着替えも持ってきてないもの」
「あはは。さすが杏奈。一度決めたらテコでも動かない強さを持っているね。でも信じてくれるんだろ?」
「信じるけど……だからと言ってセックスしていいわけじゃないもの。そういうのは付き合ってからじゃないと」
「じゃあ付き合おう。おれは杏奈だけが欲しいんだから」
「そ、そんな簡単に返事は出来ない……」

 杏奈としては、きちんと段階を踏んでから付き合いたいという気持ちが強かった。なのに体は高臣を求めるように熱くなり、その感覚に心が追いつかず、彼をなかなか否定しきれない自分に困惑した。

 すると高臣はテーブルに置かれていたベルを鳴らし、従業員を呼んだ。そして何か耳打ちをすると、
「かしこまりました」
と言い残して部屋から出ていく。

「杏奈、とりあえず荷物を持って部屋を出るよ」

 食事は全て終わっている。だが突然そう言われて困惑した。高臣の機嫌を損ねてしまったのだろうか。それならば何かフォローすべきだろうか。

「あ、あの……!」
「杏奈はここがただのレストランだと本気で思っているのかい?」
「えっ、違うの?」

 高臣は杏奈のカバンを持つと、彼女の手を引いて部屋の外へ出る。先ほど通ってきた廊下をもど
るように進み、突き当たりを入口とは逆方向に曲がった。

 すると歩いて数メートルの左手側に階段が姿を現した。高臣は杏奈の手を引いて階段を登っていくと、その先には広い廊下があり、そこに面するように木製の重厚な扉がいくつか見える。

「あのっ……ここって?」

 高臣は胸ポケットから鍵を取り出すと、一番手前のドアの前に立ち、杏奈の方に向き直る。

「ここはね、会員制のオーベルジュなんだ」
「オーベルジュ?」
「そう。レストランがメインだけど、宿泊することも可能なんだよ。そしてここが、俺が予約しておいた部屋」

 高臣の手が杏奈の腰に触れ、自分の方に抱き寄せた。互いの体がピタリと密着し、杏奈の心臓は早鐘のように打ち始めた。
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