Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
 報告によれば、ある日地主の元に不動産会社を名乗る男が現れ、長屋の脆弱性を指摘したらしい。実際に調べてもらったところ、やはり耐久性に問題があるとの診断を受けたという。

 それから不動産会社の男は隣の工場が閉鎖されショッピングモールが出来ることを伝え、今のままではこの土地の価値が下がるとして、売却を促したという。

『今なら私たちが二割り増しの金額で買い取る』
と魅力的な言葉を添えて--。

 ただこのことは世間には公表されていないから、長屋の住人の立ち退きは"耐久性の問題"を理由にして行えばいいとアドバイスを受けたのだ。

 その言葉を信用した地主は、言われた通りに立ち退きを請求したらしい。

「お祖母様には専務のような頭のキレる孫がいたり、すぐに動ける有能な弁護士がついていますからね。大事は避けられましたが、こういうことが普通の生活の中に横行していると思うと怖いですね」
「そうだな……」

 きっとこの土地の所有者も悪気があったわけではないのだろう。しかし結果として杏奈の両親を追い出し、自身も土地価格よりも大幅に安い金額で手放す羽目になってしまったことに変わりはない。

「それにこの不動産会社の男--」
「名前は違いますが、似ていますよね……」

 添付されていたのは、土地所有者の元を訪れた男の写真だった。メガネをして顔を隠していたが、それは高臣の祖母の家を訪れた男によく似ていた。

 もしこれが事実であるならば、この件にも吉村が関わっている可能性が高い。

「とにかく……この土地について疑わしい点がある以上、ショッピングモールの計画を進めるわけにはいかない。社長と一度話してみるよ」
「承知しました」

 杏奈と吉村に接点が生まれることは避けたかった。彼女をあいつから守らなければ--そのためには内密に片付ける必要があった。
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