Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「ところでこの料理を作ってくださった方は?」
「ああ、少し前に帰ったよ」
「そうなの……」

 急に料理を用意してもらったと聞いたものだから、一言お礼を伝えたかったのだが、帰ってしまったのなら仕方がない。

 残念そうな表情を浮かべた杏奈に、
「今度料理の感想を伝えるよ。だから食べたら教えてくれるかい?」
と高臣に言われたことで、パッと笑顔になった。

「ところで……どうしていきなり家なの? もしかして……あのことで何かあった?」

 高臣が一瞬手を止めたのを杏奈は見逃さなかった。きっと土地のことで何か進展があったのだろう。ただその内容を伏せようとしていることが気になった。

「いや、まだ調査中だよ」

 そう言った高臣の口の端が引きつり、目が泳いでいるのを見逃さなかった。杏奈は持っていたナイフとフォークを置き、手を膝に載せた。

 私、いつでも帰れるんだから--そんな無言の圧力を感じた高臣は、ため息をついてから笑い出す。

「わかったよ。でもまずは先に食べてから、話はその後にしよう」
「……わかったわ」

 杏奈は再びナイフとフォークを手に取り食べ始めた。

 それにしても、なんて広い家かしら--ステーキを口に運びながら、部屋の中をぐるりと見渡す。

 リビングダイニングだけでもかなりの広さがある。それに加えてあり、奥に見える階段は二階があることを示していた。

 二階には何部屋あるのかしら……いろいろなことが気になり、一度家の中を見てまわりたい衝動に駆られる。

「どうしたんだい?」
「ん……いや、すごいお家だなぁと思って。高校時代の内部生と外部生の違いじゃないけど、こういう世界を今こうして体験出来ていることが不思議だなって」
「……そうだね。俺は杏奈が恋人になって、こうして家に来てくれたことが奇跡だと思うよ」

 なんだか意味が少し違う気がしたが、高臣の笑顔が可愛いく見えたから、まぁいいかと流すことにした。

「そういえば仕事はどうだい? まだ忙しさはつづきそう?」

 高臣に聞かれ、今度は杏奈がドキッとして固まってしまう。

「……何かあるのかい?」
「ん? いや……別に……」
「怪しい。何か隠しているな?」

 話すべきか悩むが、もし話したとして、食事を最後まで食べられない気がしてくる。どうせ話すのなら、美味しくいただいてからの方がいい。

「じゃあこの話も食後でお願いします。まずはゆっくり食べたいから」

 自分が言った言葉がそのまま返ってきたので、高臣も反論できなかった。

「……わかった。そうしよう」

 とりあえず納得したようだが、これからどう話せばいいのか考える必要があった。
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