Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
 高臣は杏奈の中から出ようとはせず、まだ余韻に浸っているように見えた。

「俺の愛はまだまだ尽きないけど、明日も仕事だから無理させるわけにはいかないからね。今日はこれで我慢しよう」
「そうしてもらえると有難いわ……」

 ゆっくりと起き上がった杏奈は、ふと時計を見て時間の流れの早さに落胆した。

「そろそろ帰らないと……」

 本当はもっと一緒にいたいけど、明日も仕事だし、そういうわけにはいかない。でも--寂しい気持ちが溢れてしまい、杏奈は高臣に抱きついてキスをした。

 自分がこんなことをするタイプだとは思わなかった。どうせまた会えるし……今まではそんなふうにドライに考えていた。

 彼の愛情に触れて、自分自身が変わっていっていることに気付く。

 高臣くんなんて大嫌いだった。二人の間にはいろいろな壁が立ちはだかっていて、それを壊すことは無理だと思っていた。

 でも彼を知って、愛してると言ってくれて、熱く抱きしめられて--彼を知ることで視野が広がったのは確かだった。

 彼の腕に強く抱きしめられると、安心感に包まれる。

「杏奈さえ良かったら、この家に杏奈のものを少し置かないか? 着替えとか、化粧品とか」
「……それっていつでもお泊まり出来るように?」

 そうすれば確かに慌てなくても済むと思えば、それも良いかもしれないと思える。
 
「考えとく」

 ただまだ少し早い気がして即答は出来なかった。床に散らかった服を集めて、一枚ずつ着ていくが、急に高臣に腕を引かれてソファに倒れ込んだ。

「それはそうと、元カレに会うのはいつなんだい?」
「二日後の金曜日に来るって言ってたけど」
「じゃあその日も迎えに行く」
「でももしかしたら残業になるかもしれないし--」
「ならその時間に合わせて行く。その後泊まればいい。君が心配なんだ--何が不安というわけではないけど、でも……君のそばにいて安心したいんだ」

 ずっと恋愛から離れていた私に、今更何かあるなんて思うのだろうか。ただ不安そうに眉間に皺を寄せる高臣の顔を見て、彼を安心させたいと心から思えた。

「わかった。じゃあ金曜日にまた来るから……今度こそちゃんとお泊まりグッズを持ってくるね」

 杏奈が言うと、高臣は嬉しそうに微笑んだ。それを見た杏奈も温かい気持ちに包まれた。
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