Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「それにしても……このショッピングモールが出来るのっていつ頃決まったんだろう」
「それはわからないなぁ。でももし立ち退きが決まる前に決まっていたのなら、これって違法なんじゃない? だって嘘ついて退去させてるわけでしょ?」
「ただ……立ち退きの理由としては、建物の老朽化と耐震性の問題だって言われたんだよね。だから更地にしてから土地を売った可能性だってあるし……」

 あれだけ大きな会社だし、由利が関わっているかは自信が持てない。眉間に皺を寄せて俯くと、紗理奈は杏奈の肩をグイッと掴んだ。

「杏奈! あのYRグループが絡んでるんだよ⁈ 由利高臣が絡んでるんだよ! 何かあることを疑うべきでしょ」
「……紗理奈ちゃん、由利高臣に会ったことないじゃない。なんでそんなふうに言い切っちゃうわけ?」
「それは杏奈から話を聞いて、あの男が嫌な奴だと認識しているからよ」

 確かに由利についての文句を吐き出してきたが、紗理奈にそこまで言わせるほど彼を悪く言い続けていたのかと、杏奈は思わず苦笑する。

 全く会ったことない人にここまで言わせてしまった自分を反省しなければ。

「でも半年前に店を閉めたし……立ち退き料ももらってるし……」

 それにYRグループが関わっていると知ったならば、尚更関わりたくないような気もする。

 両親は今の生活を楽しみ始めたところで、水を差すのも気が引けた。

「もしもの話よ。あそこにショッピングモールを建てるための"計画的な立ち退き"だったとしたら、裁判とかしたら勝てるんじゃない? そうしたら立ち退き料だって跳ね上がる気がする!」

 当事者なのに積極的になれない杏奈とは違い、どうして紗理奈は他人のことにここまで熱くなれるんだろう--。

「うん、とりあえず考えてみるよ」

 そう、考える。でもそんな大それたことをやる勇気はなかった。

 これが俗にいう"泣き寝入り"ってやつかもしれない。私は今の穏やかな生活を脅かされたくないんだ。

 紗理奈は杏奈の言葉を聞いて、それ以上は追求しなかった。きっと杏奈が何もしないことに気づいているのかもしれない。

 高校の卒業式で見せた勇気。あれが一時的なものじゃなくて、自分の中の通常装備だったら人生変わっていただろうな--心に芽生えたモヤモヤをグッと押し殺し、グラスの水を飲干した。
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