心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
その時だった。

額縁に囲まれた、緑と白が敷き詰められた絨毯の世界。その向こうにある、吸い込まれそうな青空。

絵の中に引きこまれ、クローバー畑に降り注ぐはちみつ色の日差しに、紗知子までもが温められるような錯覚を覚えた。

懐かしさを誘うその暖かな風景画に、紗知子の心が揺れた。

胸の奥がしくしく疼いて、涙を押し出してくるような切ない気持ちが呼び起こされる。これは何だろう。

「なんだか…心を動かす絵ですね」

「よかった。そう言ってくれてうれしいよ」

遼の声が春風のように優しかった。

小さなころの記憶がおぼろげによみがえり、じわりと体の芯が温まる。クローバーの茎を編んでいる紗知子のもとに、誰かが近づいて来る、そんな映像が浮かんだ。

ふと、遼を見た。茶色い瞳が、優しく紗知子を包み込むように微笑んでいた。

「ねえ遼さん、私たち昔、どこかで会いましたか?」

「実は僕も、そんな気がしてならないんだ」
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