心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
九歳の駿介が、こちらに近づいてくる。頼れる兄のような幼馴染が現れると、安心した紗知子の目から堰を切ったように涙が流れだした。

「俺、お医者さんになって紗知子の心臓治すから。元気になって、お前が好きなことなんでもできるようにしてやる。良くなったら何がしたい?」

駿介が言った。しゃくりあげながら、紗知子は出来上がった花輪の冠をじっと見詰める。そして言った。

「私、駿ちゃんのお嫁さんになりたい。駿ちゃんと結婚したい」

歯を食いしばって涙を止めようとする紗知子の頭に、駿介は冠をのせた。

「わかった。元気になって俺のお嫁さんになれ。他にしたいことも全部やれ。それまで我慢だ。いいか」

「うん。我慢する」

「それまで、俺も頑張るから」

駿介は屈んで紗知子の顔を覗き込み、頬の涙を指で拭うと微笑んだ。

一面に咲く白いシロツメクサの絨毯が、春の風に揺れていた。
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