心臓外科医になって帰ってきた幼馴染の甘くて熱い包囲網
終章
───クローバーの絵を見た時に胸によみがえった心地は、この思い出からくるものだったのだ…

紗知子がうっすら目を開くと、涙で天井が揺れて見えた。

隣では、すっかり大人の男になった駿介が、安らかな寝息を立てている。その寝顔には昔見た少年時代のあどけなさが浮かぶ。

紗知子はたまらない愛しさにこらえきれず、駿介の閉じた瞼にそっと唇を押し当てた。



数日後、紗知子と駿介は待ち合わせ場所の高架下に訪れた。

ガラスが入れ替えられたウインドウの前に、背の高い一人の中年の男性が立っていた。

日本人離れした長い手足。茶色のベイカーズボンに、袖がほつれた黒いタートルニット。耳にかかるウエーブの白髪の先に、ブルーの絵の具がこびりついて束になっている。太い黒縁の眼鏡の奥の鳶色の瞳は、少年のように輝いてる。

駿介に向かって手を掲げると、駿介の隣を歩く紗知子を見るなり、握手の手を差し伸べて言った。
< 41 / 45 >

この作品をシェア

pagetop