ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 村長の家からの帰り道。ずっと後ろから話し合いを見ていたラウレルが口を開いた。

「皆、俺のことを責めないんですね」
「え? なぜラウレル様を責める必要があるんです?」
「俺が魔王を倒したから、生活が一変して困っているのに」

 なにを言うのかと思えば。
 ずっとラウレルの口数が少なかったのは、それを気にしていたからだったようだ。

「まさか! 責めるわけないですよ!」
「ビオレッタさん……でも」

 あろうことか、彼は申し訳なさげな顔を浮かべている。
 平和のために魔王を倒したラウレルをこのように悩ませてしまうなど、あってはならないことだ。

「ラウレル様。私とシリオの両親はモンスターにやられました」
「……そうだったんですね」
「他にもモンスターに家族を奪われた者達は沢山います」

 ビオレッタはラウレルの顔を見上げた。

「皆、ラウレル様には感謝しかありませんよ。責めるなど、そんなはずないでしょう」

 そういえば、ラウレルには直接伝えたことがなかったかもしれない。プラドのバザールでもコラールの村でも、彼の隣を歩くと当たり前に聞こえてきた言葉。ありきたりだけれど、とても大切なあの言葉を。


「ラウレル様。世界を救って下さり、ありがとうございます」

 ビオレッタはラウレルに向き直り、深く頭を下げた。

「そして……私の背中を押してくれて、本当にありがとうございました」

 ラウレルに相談して、村の皆と話し合って、ビオレッタの不安は驚くほど軽くなった。

 悩みが解決したわけではない。
 ただ、誰かと前向きな相談が出来ることで、こんなにも晴れ晴れとした気持ちになるなんて。

 下げていた頭を上げたビオレッタは、ぎょっとした。
 ラウレルがうるうると涙目になっているではないか。

「すみません、う、嬉しくて……」
「嬉しくて、泣きそうなのですか!?」

 いつも余裕なラウレルが、瞳を潤ませるなんて。

「だって、まさかビオレッタさんからそんな感謝の言葉を聞けるなんて」
「私のこと一体なんだと思ってるんですか」
「未来の妻だと思っています」

 相変わらず、彼の想いはブレることがない。
 涙を抑えたラウレルはビオレッタの手を取り、再び道具屋へと歩き出した。

「少しは俺と結婚する気になりました?」
「それとこれとは話が別なので」

 夕陽の中、手を繋ぐ二人の影が長く伸びる。
 少しずつ距離が近づく彼らの姿を、村の皆が微笑ましく見守っていた。
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