ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「ビオレッタさん、おはようございます!」
「おはようございます、ラウレル様」

 今朝もあまり眠れなかった。
 自分はどうしてしまったのだろう。あの予知夢を見てからというもの、ラウレルを意識して仕方がない。顔を合わせても、彼の顔を直視出来ない。
 
「朝ごはん作ったんです。ビオレッタさんも食べましょう?」
「ありがとうございます、いただきます」

 ラウレルはビオレッタよりも遥か先に起きていて、朝からあれこれ働いてくれていたようだった。
 彼が作った朝食は、目玉焼きと葉野菜のソテー。ミルクも焼き立てのパンも、テーブルの上で湯気をたてている。

「すみません。私、なにもしないで」
「そんなこと気にしないで。さあ」

 ラウレルに促されるまま、ビオレッタはテーブルについた。至れり尽くせりの朝食に気後れしながらも、自分のために作ってくれた朝食がこんなに嬉しい。

(優しい……ホッとする……)

「あの……ラウレル様」
「なんですか?」
「ええと……」

 あの時は確かに、本音が聞けたのに。「ビオレッタ」と呼びたいと、そう言ってくれたのに。
 なぜ、また元通りに戻っているのですか?
 ――なんて、ビオレッタにはとても聞けなかった。

 ちらりとラウレルに目を向けると、彼は応えるように目を合わせてくれる。そして一緒に朝食をとりながら、たわいのない話を振ってはビオレッタを和ませた。

 本当に、どうかしている。
 この生活がずっと続けばいいのにと、願ってしまっている自分がいるなんて。
 もう一度、「ビオレッタ」と――あのひとときが恋しいと思ってしまっているなんて。
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