ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

「もうこんな時間……ラウレル様も心配しているかもしれませんね」
「そういえば、私ラウレルに言いたいことがあって探しに行ったんだったわ。あいつのことだから絶対、グリシナ村に居座ってると思って」

 カメリアの予想はずばり当たっていた。さすがだ。

「そろそろグリシナ村に戻りましょ。……ん?」



 突然、二人の上に影が射した。
 急な雨雲かと空を見上げると、それは違った。なにやら大きな黒い影が上空を旋回しているではないか。

「カメリア様……あれはモンスターですか!?」

 しばらく旋回していた黒い影は、こちら目掛けてどんどん近付いてくる。魔王は倒され、モンスターもいなくなったはずなのに、一体どういうことなのだろう。

「………………ビオレッタちゃん、あれはモンスターじゃないから安心して。竜なの」
「竜?」
「名前はプルガ。ラウレルの竜よ」

 カメリアは上空を仰ぎ見ながら大きなため息をついた。

 以前、竜族の里をモンスターから救った際に、勇者ラウレルは竜と契約したという。それがプルガ。

「転移魔法で追ってこれなかったから竜で追ってくるとか……もう、あいつ何なの……怖……」

 竜のプルガが間近に迫ってきている。
 翼の羽ばたきで木々がざわめき、ビオレッタのスカートもたなびく。


「ビオレッタさん!!」


 プルガの背中にラウレルの姿が見えた。
 彼はビオレッタの姿をとらえると、ためらい無くプルガの背から飛び降りた。

「ラウレル様! 危ないっ……」


 ビオレッタの心配をよそに、ラウレルは柔らかな芝をめがけて着地する。
 芝に座り込み、こちらを見上げる彼の目には、怒りの色が宿っていた。

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