ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「ビオレッタ!」

 大きく広げられたラウレルの腕に、ビオレッタの身体がズシリと収まる。

 彼女を受け止めることに成功すると、ラウレルは安心したようにずるずる腰を下ろした。
 少しずつ、彼を包んでいた黒いオーラが弱くなっていく。


「……ラウレル様。無茶しないでって、言ったじゃないですか」
「ビオレッタこそ……なんて無茶なことを」

 ビオレッタは、青ざめる彼をきつく抱きしめた。
 自分の無事が、彼にちゃんと伝わるように。

「……君に何かあったら、俺は俺じゃ無くなってしまう」

 ラウレルはわずかに震えていた。先程まで稲妻を放っていた彼の手は、すがるようにビオレッタをかき抱く。
 
「私は無事です、ラウレル様。こうして迎えにきてくれたから。それよりも城が大変なことに……」
「ビオレッタ以上に大事なものなど無い。こんな城、滅びてしまえばいい」
 
 闇にのまれそうなラウレルの身体からは、パチパチと稲妻が爆ぜている。
 時折、肌にあたる稲妻がピリリと痛い。
 しかし彼はそれ以上に苦しそうだ。どうにかして、ラウレルを救いたかった。
 
(どうしたらラウレル様の心は元に戻る……?)

 心を殺して、ずっと世界のために戦ってきたラウレル。
 魔王を倒し、やっと手にすることができる彼の望み。
 それをまたオルテンシアに取り上げられそうになったから、彼は――
 

「……こうなっては『オルテンシアの勇者』失格ですね。ラウレル様、私と村に引っ込みましょう」
「……グリシナ村に?」
「王も、城をこんなにめちゃくちゃにしたラウレル様を『勇者』の任から下ろすはず。そうですよね、オルテンシア王」

 ビオレッタは、そばで腰を抜かしているオルテンシア王に強い視線を送った。「ここで決して間違えぬように」というメッセージを込めて。

「……ああ、ご苦労様であった。勇者の任を解こう……」

 殺されかけ呆けてしまったオルテンシア王は、力の無い声でそれに応えることとなった。
 
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