ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
 ついにラウレルは、『勇者』の重責から解き放たれた。

 彼を覆っていた暗黒のオーラは完全に消え去り、それを感じ取った竜達も少しずつ里へと帰っていく。

「次ビオレッタに何かしたら、こんなものでは済まさない」

 ラウレルはオルテンシア王を見下ろしながら言い捨てると、ビオレッタを横抱きにして迷いなく塔から飛び降りた。

「えっ? ラウレル様? えっ?」

 これは落ちたら間違いなく死ぬ高さ。
 思わずぎゅっと目を閉じると、次の瞬間ふわりとした浮遊感を感じた。そして風に乗る大きな羽音。

 そこはプルガの背中であった。

「……ラウレル様、プルガ、驚かせないで下さい……」
「ごめん、早くこんな場所から離れたくて」

 みるみるうちに、プルガは塔よりも高く舞い上がる。

 空から見れば、オルテンシアの街は無事のようだった。ラウレルと竜達は城だけを狙って徹底的に攻撃したらしい。

 あちこちから立ち上る煙、後処理に追われる兵士達、そして……塔で座り込んだままのオルテンシア王。
 欲をかいた成れの果て。王も、彼を敵に回してはいけないと思い知っただろう。

「これで俺はオルテンシアの嫌われ者だ。もう二度とこの街に来ることはない」

 言葉とは裏腹に、ラウレルは実に晴れ晴れとした表情をしている。

「もう、俺の帰る場所はグリシナ村だけです」

 二人はプルガの背にのって、グリシナ村へ続く空に消えていったのだった。

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