恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

Spot11 オーベルジュ・Cerisier 1

翌週火曜日、『ベリが丘びより』編集部。

「なーんか、おかしい気がするんだよなあ」

梅島編集長が難しい顔をしてパソコン画面を睨んでいるので、胡桃がデスクから声をかける。
「どうしたんですか?」
「また広告掲載を終了したいってメールが来た。小サイズの広告だから大勢(たいせい)に影響は無いけど、今までこんなこと無かったのになあ」

壱世が掲載された号は確かに評判が良く、それを機に新たにスポンサーになってくれる企業もいくつかあったが、それとは別に元々のスポンサーが少しずつ離れていくことは続いている。

(どうしてだろう? 部数が減ってるわけじゃ無いし、今までと遜色ない特集内容だし、読者アンケートを見てもマンネリで飽きられてるなんてことも無いと思うんだけどなぁ)

「お、市長」

梅島の言葉にギクっと肩が上下する。

編集部に設置されているテレビの画面に壱世が映っていた。
定例記者会見で予算のことや行政手続きへのデジタルツールの活用、イベントの開催などについてマスコミの前で語っている。
その姿は堂々としていて風格を感じさせる。

(テレビの向こうだからかな、知らない人みたい)

自分の側で笑ってくれていた壱世とは別人のように遠い存在に見える。
しかし、これが本来の彼との距離感だとも思える。
胡桃は「ふぅ」とため息をついて、持っていた原稿をデスクでトントンと整えた。

(週末は気晴らしにかき氷屋さんめぐりでもしようかな)

この週末からは自分が栗須邸に赴く理由が無くなってしまった。

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