恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
その日の夜。

「え?」
胡桃はスマホの画面を見て思わず声を出した。

【申し訳ないが、今週は送迎できない。タクシーを手配しておく】
壱世からのメッセージだった。

(今週末も私が十玖子さんのところに行くの? 行っていいの?)

本物の婚約者が戻ってきたというのに、偽物の自分が十玖子を騙し続けるのは気が引ける。
(いきなり婚約解消したって言ったら怪しまれるってことかな)

【私が行っていいんでしょうか?】
と打って、送信しようとしたところで指を止める。

まだ十玖子たちに会えるなら会いたい。
わざわざ確認すれば〝やっぱりだめ〟となってしまうかもしれない。

(きっともうすぐ終わってしまうから、十玖子さんたちにもちゃんとお礼を言って終われるようにしなくちゃ)

***

週末、栗須邸。

「こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「いらっしゃい」
笑顔の十玖子が胡桃を迎える。

「あのこれ、前に十玖子さんが好きっておっしゃってたドイツパンです。私のオススメのパン屋さんのものなのでよかったら」
そう言ってパン屋の紙袋を差し出した。

「あら、ありがとう。でもどうしたの? 急に」
「今までいろいろ教えていただいたので……」

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