恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
その後は言われていた通り壱世の隣に立って、あいさつに来るゲストと話す彼の言葉に笑顔で相槌を打ってやり過ごした。

無事にパーティーが終わると、時刻はもう二十一時を回っていた。

「遅くなってしまって申し訳ない」
「大丈夫です。ではこれで。この服はクリーニングに出してお返ししますね」

「送っていくに決まってるだろ?」
「え!? い、いいです、一人で帰れます」
「市長が婚約者を一人で、それも歩いて帰らせた、なんて噂が立つと困る。それに君が元々着ていた服と荷物も車の中だ」

壱世に押し切られ、胡桃はしぶしぶ彼の車の助手席に乗り込んだ。

短い時間とはいえ、市長との急なドライブは胡桃を少し緊張させる。
行きも同じように車に乗ってきたが、婚約者になりきる心の準備で頭がいっぱいだった。

「今日は強引にお願いしてしまって申し訳なかった。助かったよ、ありがとう」
「はい、非常〜に強引でしたね」

胡桃が軽く非難するように言うと、運転席の彼は前を見たままバツの悪そうな顔をした。

「だけど、料理も豪華でしたしお酒もおいしかったし、いろんな方ともお話しできて、案外楽しかったです」
そう言って、胡桃はにっこり笑った。

「さっきも思ったけど、君は適応力がすごいな」
壱世が感心するように言う。

「うーん、適応力っていうか……〝どんな状況も楽しまなくちゃ損〟て思ってるだけです」

胡桃が言うと、彼は沈黙した。

「え? 私変なこと言いました?」

「いや変なことなんかじゃなくて、実行できているところがすごく良いと思って感心した」

信号を待つ壱世が胡桃の方を向いて優しく笑うので、胡桃の心臓がトクンと音を立てた。
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