恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

Spot6 ツインタワー

***

三週間後、七月の半ば。
パンツスーツ姿の胡桃は市のSDGs推進イベントの手伝いで、ビジネスエリアにあるツインタワーを訪れていた。

タワー一階の吹き抜けのホールに、市の取り組みの展示や地元企業のブース、それに市内の高校生までの子どもたちから公募した絵が展示されている。
イベント最終日の今日はその絵画コンクールの表彰式もとり行われることになっている。

「あ、高梨さん。こんにちは」
胡桃は会場の隅に高梨を見つけて挨拶をした。

「江田さん。こんにちは、取材ですか?」
「取材もですけど、うちの会社もこのイベントの協賛なので手伝いに借り出されました。イベントの様子をベリビの次号に載せるので、今日はカメラマンも私が兼ねることになってます」

そう言ってコンパクトな一眼レフを顔の高さに掲げてみせた。
胡桃の腕には【プレス】と表記された腕章が付けられている。

「この会場に食べ物がなくて良かったな」
胡桃の頭上から声がして、後ろを振り向いて見上げる。

「壱……じゃなかった、市長」
「食べ物の写真ばかり撮りそうだもんな」
壱世が笑って言う。
「そんなことないですよ。仕事中は仕事モードでちゃんとしてますから」
胡桃は口を尖らせる。

「随分と仲良くなられたようで」
事情を知っている高梨がメガネをクイッと上げながら言う。
「え、そんなことは……」

「市長、そろそろ時間のようですよ」

胡桃が言いかけたところで、スーツ姿に白髪まじりの五十代くらいの中年男性が割って入った。
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