恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
(この人はたしか、副市長の……鹿ノ川(かのがわ)さん)

先日の取材で市長の公務に密着した際に少しだけ顔を合わせている。

「こちらの方は?」
鹿ノ川は胡桃を一瞥すると、高梨に尋ねた。
取材のことは全く覚えていないようだ。

「『ベリが丘びより』というタウン誌の記者の方です」
「あ、私江田と申——」
胡桃が名刺を差し出そうとするのを無視して、壱世の背中を押すように会場の真ん中へと向かって行った。

(……なんかすっごく嫌な感じ)

鹿ノ川に連れて行かれた壱世は、会場の真ん中に設けられたステージでの表彰式に立っていた。
ここでもまた、あちらこちらから壱世を見て騒つく女性たちの声がする。

(すごい人気。ベリビも反響があるわけだ)

ツインタワーに別の目的で来たような人たちも、壱世を見て立ち止まっていく。

(ここ最近、プライベートの壱世さんばっかり見てたからなんかちょっと変な感じ。服はいつもスーツだから、見た目は変わらないけど)

ファインダー越しに公務をこなす壱世を見て、改めて市長であることを思い出す。
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