恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「お待たせしました」
湿布の箱を手にした高梨が部屋に入ってきた。

「じゃあ、湿布を貼ってしばらく様子を見るといい。俺は会場に戻るから、あとはよろしくな、高梨」
「はい」
それから胡桃は高梨の買ってきた湿布を貼り、少しだけ休むと会場に戻ることにした。

胡桃と高梨が会議室を出ようとした時だった。
「まったく市長にも困ったものだな」

男性の声が聞こえてきて胡桃は足を止める。声の主は鹿ノ川の取り巻きのようだ。

「まったく、片付けなんて下の人間にやらせておけばいいのにな」
「これが当たり前だと思われたら迷惑だよな。市長にはスポンサーと話す方が大事だとわからないのか?」
「こんなのあれだろ? 人気取り。支持率のために必死だな」
「本当だよな。さっきの女性を運んでいったのもパフォーマンスだろ?」

胡桃はムッとして、その場で怒鳴ってしまいたい気持ちになった。
しかし揉め事を起こせば会社に苦情が行ってしまう気がして、グッと堪えた。

「栗須さんはそんな人ではありませんよ」

そう胡桃に言ったのは胡桃の後ろについてきていた高梨だった。
胡桃は振り向いて彼を見上げた。

「彼は前の仕事で社長だった頃から、面倒ごとほど自ら率先して行動していましたから。責任感の強い方です」
高梨はメガネをクイッと上げて、小さく笑った。
「それに優秀な経営者でしたから、何が大事かを判断できないはずがないですよ」
少し怒ってもいるようだ。

「だと思いました」
胡桃はニコッと微笑み返した。

「だけど……大変なんですね、市長」
「まあ、敵は多いですね。それは栗須さんも覚悟していたはずですが」
高梨はため息交じりに言った。

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