恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

Spot8 栗須邸 3

夏の夜の暑さのせいか、胡桃は深夜にふと目を覚ました。

暗闇に慣れた目で隣の布団を見ると、壱世の姿が無いのに気づく。

(お手洗いとかかな)

入り口の引き戸が少し開いているのに気づいて、閉めようと起き上がる。

「あれ? 壱世さん?」

戸の隙間から、中庭の縁側を兼ねた廊下に座る壱世の背中が見えた。
胡桃は戸を開けて廊下に出た。

「悪い、煙入ってたか?」
胡桃に気づいた壱世が振り返る。

縁側のガラス戸を開けて座る彼は、中庭に向かってタバコを吸っていた。
胡桃は首を横に振ると、「お邪魔します」と小声で言って壱世の左隣にちょこんと腰掛けた。
中庭の上には満月から少し欠けた月が輝いている。

「タバコ吸うんですね」
二か月半ほどほぼ毎週会っている壱世がタバコを吸っているのを見たのは初めてだ。

「いや、最近はほとんど吸わない。これも前に買って開けてなかったやつだし、市長になってから初めて吸ったんじゃないか? このご時世、支持率に影響しそうだしな」
彼は本気とも冗談とも取れることを言って「フッ」と笑った。

(なのに今日は吸ってるんだ)

何かタバコを吸いたくなるような気分になることがあったのだとうかがわせる。
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