微熱愛でいいから、ちょうだい
歩きながら、慣れた手つきでカバンの中をまさぐる。
「はい、お母さん特製おにぎり」
ラップで包まれた中くらいの三角が瑶くんの手に収まる姿を見れば、わたしの頬にまたひとつ嬉しさが乗っかった。
学生のうちは朝ごはんを抜くな、が我が家のルール。
毎日こうして美味しいおにぎりを握ってくれるお母さんには感謝だ。
「あーあ、虹でも出ないかなー」
冗談でいい天気だって言ってはみたものの、見上げた空はどんよりしている。
ここに綺麗な虹色がかかってくれたら…
「虹?」
「うん、瑶くんの彼女再立候補記念に!」
「…莉乃、おまえ、ほんとに懲りないな」
「懲りないよ、だって瑶くんが好きだもん」
当然のように言い切る。
その先で、また始まったと言いたげに呆れた表情が刻まれたのも気にせずに、わたしはひょいっと身を乗りだした。